「嚇」

白川静『常用字解』
「形声。音符は赫カク。赫は赤を二つならべた形で、“あかい、さかん、激しく怒る”の意味がある。激しく怒ることを赫怒といい、激しく怒ったときに発する声を嚇という。激しく怒ったときの声であるから、嚇は“おどす、しかる”の意味となる」

[考察]
ほぼ妥当な解釈であるが、字形から意味を導き、赫(激しく怒る)+口→激しく怒ったときに発する声とする。
しかし言葉が先にあり、文字が後にできた。言葉から出発するのが正しい字源論である。古典漢語ではどなる声をhăkという。『荘子』に、鳳凰が空を飛ぶ姿を見たトビが空を仰いでカッ(嚇)とどなったという話が出ている。カッというどなり声がhăkである。これは擬音語である。この語を図形に表して嚇とした。すでに存在していた赫を利用したわけである。なぜ赫なのかというと、音が同じであり、赫が「(赤く)燃えさかる」というイメージを表すことができるので、口から火を吐くような情況を「赫(音・イメージ記号)+口(限定符号)」によって暗示できるからである。
嚇はどなり声→カッとなって怒る→おどしつけると意味が転じる。
漢字の成り立ち(字源)を論じるには、まず言葉から出発して意味を調べ、その意味がなぜその文字で表されるかの理由を説くのが正しい筋道である。字形から直接意味を導くべきではない。