「穫」

白川静『常用字解』
「形声。音符は蒦カク。蒦の古い形は隻で、隹を又(手の形)で捕らえている形で、鳥をとるの意味である。これに禾(いね、穀物類)を加えて、農作物を“かりとる、かりいれる”の意味となる」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。蒦(=隻。鳥をとる) +禾(いね)→農作物をかりとる、と意味を導く。この方法は形声ではなく、会意である。会意とはA+B=Cという具合に意味をプラスする方法である。AとBは同じレベルの記号とされる。これに対し、形声の原理は「A(音・イメージ記号)+B(限定符号)」と解析する。AとBはレベルの異なった記号とする。
白川漢字学説は言葉という視点がないから、まず穫がどういう意味で使われているかを具体的文脈に当たる必要がある。古典に次の用例がある。
 原文:八月其穫
 訓読:八月其れ穫(か)る
 翻訳:八月に[作物の]刈り入れをする――『詩経』豳風・七月

穫は作物を取り入れるという意味で使われている。この言葉を古典漢語ではɦuak(呉音ではワク、漢音ではクワク)といい、視覚記号として穫が考案された。これは「蒦(音・イメージ記号)+禾(限定符号)」と解析できる。蒦は「枠の中に入れ込む」「枠で囲む」というコアイメージを示す記号である(189「獲」を見よ)。したがって穫は稲を刈って納屋などに取り込む情景を暗示させる。これは図形的意匠であって、そのまま意味ではない。意味は上記の通り「作物を取り入れる」である。
穫と獲は同源の語で「枠で囲む」「枠の中に入れ込む」という共通のコアイメージをもつ。ただし実現される意味は異なる。