「学」
正字(旧字体)は「學」である。

白川静『常用字解』
「会意。爻と𦥑と冖と子とを組み合わせた形。もとの形はAで、屋根に千木(交叉した木)のある学舎の形。のちに加えられた𦥑は左右の手で、教え導くの意味があり、Bの字となる。さらに、年少の学ぶ子を加えて學の字となり、“まなぶ”の意味となる」
A=[メ+介](縦に合わせた形) B=[𦥑+爻+冖](學から子を除いた形) 

[考察]
字形から意味を求めるのが白川漢字学説の方法である。A(屋根に千木のある学舎)+𦥑(教え導く)+子(年少の学ぶ子)→まなぶという意味を導く。
疑問点①屋根に千木のある建物がなぜ学舎なのか。千木と学舎の関係に必然性がない。②𦥑は両手で物を挟む、あるいは両手で物を捧げるの意味はあるが、「教え導く」という意味はない(『漢語大字典』)。學が「まなぶ」の意味だから、𦥑を「教え導く」の意味としたに過ぎない。
形から意味を求めるのは無理がある。意味とは字形にあるのではなく言葉にある。言葉の具体的な文脈における使い方が意味である。學は古典で次のように使われている。
 原文:學而時習之、不亦説乎。
 訓読:学んで時に之を学ぶ、亦説(よろこ)ばしからずや。
 翻訳:学んでおりふしにおさらいする。よろこばしいことではないか――『論語』学而

學は「まなぶ」という意味で使われている。この言葉を古典漢語ではɦŏk(呉音ではガク、漢音ではカク)という。これを表記する視覚記号として學が考案された。分析すると「𦥑+爻+冖+子」の四つの記号から成る。爻コウが最も重要な記号で、語の深層構造に関わる記号であり、コアイメージを表す記号である。どんなイメージか。爻は交差の符号である×を二つ重ねた象徴的符号で、「二つのものが交差する」というイメージを表す。交差のイメージは⇄の形でも表せる。𦥑は両手の形である。冖は宀(屋根の形)と同じ。子は子どもである。したがって學の構造は「爻(音・イメージ記号)+𦥑+冖(二つ併せてイメージ補助記号)+子(限定符号)」と解析できる。
子が限定符号になっているのは子に関する場面や情景をもつ意匠を作るためである。それはまなぶ情況の設定にほかならない。子どもの相手は先生(師匠)である。先生が子どもに知識を与えると、子どもは先生からそれを受け取る。この情況を図示すれば先生⇄子どもの関係が読み取れる。これは知識の授受だが、先生→子どもの方向の行為に視点を置くと「おしえる」、先生←子どもの方向に視点を置くと「まなぶ」となる。「おしえる」と「まなぶ」は同じ行為の盾の両面である。以上が爻という記号の役割である。𦥑は両手で、行為・動作に関わることを示す。冖は場所を設定する符号。かくて學は先生と子どもが屋根の下で知識のやりとりをする情景を暗示させる。この図形的意匠によって、「まなぶ」を意味するɦŏkを表記する。
なお「おしえる」ことはkɔg(呉音でケウ、漢音でカウ)といい、敎と表記される。これにも爻と子、また攴(行為・動作に関わる符号)が含まれている。