「岳」
旧字体は「嶽」である。

白川静『常用字解』
「象形。古い字形は、山の上に羊の頭の部分を加えたものである。岳は嵩山という山の古い名。この方面には古く羌族が住み、嵩山の山の神は伯夷で、姜姓の部族の始祖であった。山の上に羊の頭の形をおく古い字形は、岳が羊を牧畜していた羌族の聖地であったとする神話にもとづいて作られたものである」

[考察]
漢字の字体を一つと見るのは間違いで、変化することがある。字体の変化を記述することも大事である。岳を象形文字とするが根拠はない。「丘+山」と変化した字体から説明すべきである。また「嶽」に変化する。旧字体は嶽であった。だからこの字体の説明も必要である。
古典では嶽は次のような用例がある。
 原文:崧高維嶽 駿極于天
 訓読:崧高スウコウなるは維(こ)れ嶽 駿(おほ)いに天に極(いた)る
 翻訳:高くそびえるのは御岳 大いに天まで届く――『詩経』大雅・崧高

中国に四嶽と呼ばれる山があり、泰山を東嶽、崋山を西嶽、衡山を南嶽、恒山を北嶽という。嶽はその総称で、高く大きな山の意味。「獄(音・イメージ記号)+山(限定符号)」と解析する。漢代には「嶽は埆(固い)なり」という語源意識があった。藤堂明保は玉・獄・嶽は同源で「ごつごつと固い」という基本義があるという。獄は「かみ合わないで角が立つ」というイメージがある(598「獄」を見よ)。これは心理的なイメージだが、物理的なイメージにも転化する。つまり「角があって、ごつごつと固い」「∧の形にぎざぎざしている」というイメージである。したがって嶽は∧の形に(鋭角的に)高くそびえる山を暗示させる。
岳は古文(戦国時代に行われた字体の一種)で嶽と同音同義である。「丘+山」を合わせたもので、コアイメージを示す指標は含まれていない。