「喝」
正字(旧字体)は「喝」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は曷。曷は、死者の骨の形である匃(勹は人を横から見た形、兦は亡のもとの字で崩れた骨の形)に曰(祝詞を入れる器の中に祝詞のある形)を加えた形で、死者の骨を呪霊として、激しく祈って人に呪いなどを加えるの意味となる。その激しい祈りの声を喝といい、その声は人を“しかる、どなる、おどす”ときの声に似ていたのであろう」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。曷(死者の骨を呪霊として激しく祈って呪いを加える)+口→激しい祈りの声、と意味を導く。
疑問点①祝詞は口で唱える文句のことだが、これが器に入っているとはどういうことか。「祈る」というからには口で唱えているはず。②匃(死者の骨)と曰(祝詞の入った器)を合わせて、「激しく祈って呪いを加える」という意味になるだろうか。死者の骨を呪霊とするのはどういうことか。③「口」は白川学説では「祝詞を入れる器」という解釈で統一されているが、なぜ喝の「口」は「くち」なのか。喝が祈りの声だから「口」は「くち」とせざるを得ないのであろうが、統一性に欠ける。
形から出発するのがそもそも間違いである。意味は形にあるのではなく、言葉にあるからである。まず言葉の意味を古典で確かめるべきである。喝は次のような用例がある。
 原文:恐猲(=喝)諸侯。
 訓読:諸侯を恐喝す。
 翻訳:大名たちをどなりつけて恐れさせた(おどした)――『戦国策』趙策

喝は大声でどなりつける意味で使われている。おどす意味はその転義である。大声を出す際の声は普通の発話の声ではない。声帯を摩擦させて音を振動させる。ほとんどかすれ声である。喝は「声がかすれる」という意味もある。意味の展開としては、声がかすれる→声をかすらせてどなる→大声を出しておどす、と展開したと考えてよい。最初の「声がかすれる」を意味する語の表記として考案されたのが喝である。これは「曷カツ(音・イメージ記号)+口(限定符号)」と解析する。曷を分析すると「匃+曰」、匃を分析すると「兦+勹(=人)」となる。兦(=亡)はついたて状のもので人を遮る形。匃は物乞いをするために、人を遮って押し止める情景を設定した図形である。匃カイは「物乞いをする」という意味で使われ、乞丐キッカイ(物乞い)の丐と同じである。イメージ記号として使われる匃は「遮り止める」というイメージを表す。図示すると→|の形である。動くものが遮られると摩擦が生じ、動きが悪くなる。声の場合はかすれる。「匃(音・イメージ記号)+曰(言葉や声を出すことと関わる限定符号)」を合わせた曷は、声が摩擦や障害に遮られてスムーズに通らずにかすれる情況を暗示させる。曷にさらに限定符号の口を添えた喝は「声がかすれる」ことを表している。