「渇」
正字(旧字体)は「渴」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は曷。曷は死者の骨(匃)に祝詞を入れる器の中に祝詞のある形(曰)を加え、死者の骨を呪霊として激しく祈ることをいう。大声で祈り喝(しか)って、のどが“かわく”ことを渇という」

[考察]
疑問点は198「喝」と共通。字形の解釈も奇妙なものだが、意味の取り方もおかしい。激しく祈る→大声で祈りしかる→かわくと展開させるが、それらの間に必然性が感じられない。なぜ「しかる」が出るのか分からない。
白川漢字学説には形声の説明原理がなく、すべて会意的に説くのが特徴である。そうするとうわべだけなぞった意味の取り方になる。言葉という視点がないから、語の深層構造が分からない。語の深層構造に深く掘り下げるのが形声の説明原理である。コアイメージを把握することが重要である。コアイメージをつかめば意味の展開はスムーズに理解できる。
まず古典から意味を確かめよう。次の用例がある。
 原文:憂心烈烈 載飢載渴
 訓読:憂心烈烈たり 載(すなは)ち飢ゑ載ち渇く
 翻訳:憂いは燃える火のように 飢えと渇きに耐えかねる――『詩経』小雅・采薇

渇は「のどがかわく」の意味で使われている。日本語の「かわく」は「カワは、物のさっぱりと乾燥したさまをいう擬態語」で、「かわく」は「①水分や湿気がなくなる。②口中がからからになる」の意味という(『岩波古語辞典』)。漢語では①は乾、②は渇と対応する。
のどがかわくのは口中がからからになる現象で、これは唾などの水分がなくなるからである。水分がなくなるのは何かに遮られてスムーズに通ってこないからである。ここに「遮り止める」というイメージがある。このイメージを表す記号が曷である(198「喝」を見よ)。したがって「のどがかわく」を意味する古典漢語を「曷カツ(音・イメージ記号)+水(限定符号)」を合わせた渴によって表記する。
上記の通り「のどがかわく」が最初の意味であるが、水分が遮られて通らないというイメージがあるから、水分が尽きる(水がかれる)という意味にも転じる。渇水の渇はこれである。