「滑」

白川静『常用字解』
「形声。音符は骨。骨の表面はきわめてなめらかであるので、水に濡れて“なめらか、すべる”状態を滑という」

[考察]
骨の表面がなめらかだから、滑は水に濡れてなめらかの意味とする。これは皮相的な意味の解釈である。形から意味を導くだけで、言葉という視点がない。骨という実体ではなく、コアにあるイメージを捉えることが大切である。
古典漢語で物事がすらすらと進み滞りがない状態をɦuət(呉音でグヱチ、漢音でクワツ)という。これは日本語の「なめらか」に当たる。「なめらか」は物理的に摩擦がなくつるつるしている状態でもあるし、事態に障りがなくすらすらと動く様子でもある。これらの意味では「なめらか」と滑は非常に似ている。
ɦuətを表記する視覚記号が滑である。これは「骨(音・イメージ記号)+水(限定符号)」と解析する。なぜ骨が用いられているのか。骨は関節から発想された語である。冎は関節の骨の形で、月は肉である。「冎+肉」を合わせて、肉に包まれた関節を表している。関節は関節腔の働きでするすると回転し、自由に動かせる。だから骨は「するするとスムーズに動く」というイメージを表す記号になりうる(599「骨」を見よ)。骨という具体は捨象され、抽象的なイメージだけが用いられるのである。かくて滑は水分や流れがスムーズに動く情況を暗示させる。この図形的意匠によって、物事が滞りがなくすらすら動くこと、つまり「なめらか」の意味をもつɦuətを表記する。
「なめらか」の意味から、「するするとすべる」という意味に展開することは容易に分かる。日本語では「なめらか」と「すべる」は違う言葉だが、古典漢語では滑の一語である。