「甘」

白川静『常用字解』
「象形。錠をして鍵をかけた形。“かぎ、嵌入する”というのがもとの意味である。甘を“あまい”の意味とするのは苷(甘草)の意味からとったものであろう」

[考察]
字形の解釈にも意味の取り方にも疑問がある。字形については『説文解字』が「口、一を含む」と解釈して以来、定説になっている。白川はこれに異を唱えて上記のように解釈し、「かぎ、嵌入する」の意味とする。しかしこんな意味は甘にない。意味とは言葉の意味であって、用例がなければ意味とは言えない。また、「あまい」の意味を苷の仮借とするが、苷こそ甘に由来するのであって逆ではない。
甘は古典で次のように使われている。
 原文:誰謂荼苦 其甘如薺
 訓読:誰か謂ふ荼トは苦しと 其の甘きこと薺(なずな)の如し
 翻訳:ノゲシが苦いなんて誰が言う ナズナのように甘いのに――『詩経』邶風・谷風

甘は最初から「(味覚において)あまい」 の意味である。これは「うまい」の意味にも展開する。古人は「甘は含なり」と語源を説いている。物を口に含んで味わうことから発想された語である。だからkam(甘)と含(ɦəm)は音が似ている。含は「かぶせてふさぐ」というコアイメージがある。甘もこのイメージから「中に含む」というイメージがコアにある。白川のいう嵌入の嵌(はめこむ)もこれらのイメージに由来する語である。
甘は口の中に– の符号(物を示す)を含んだ図形である。白川は某を曰(祝詞を入れる器の中に祝詞のある形)と木に分析している。なぜ甘もこのように解釈しなかったのか。統一性に欠ける。