「肝」

白川静『常用字解』
「形声。音符は干。内臓の“きも” をいう」

[考察]
白川漢字学説は全ての漢字を会意的に説くのが特徴である。形声の説明原理はない。本項では干の説明がつかないので、字源を放棄している。
言葉の深層構造から漢字を説くのが形声の説明原理である。肝は干にコアイメージがあると見る。だから「干(音・イメージ記号)+肉(限定符号)」と解析する。これが形声の解析法である。「A(音・イメージ記号)+B(限定符号)」がその公式である。
「肝は幹なり」「肝は干なり」が古人の語源意識である。幹も干がコアイメージなので、干・肝・幹は同源の語と言える。干は棒状の武器から発想された記号で、「長い棒」のイメージから「固くて強い心棒」「中心となるもの」というイメージに展開する(204「干」、231「幹」を見よ)。中国医学の身体観では内臓に肝・心・脾・肺・腎・胆・胃・腸・膀胱がある。膀胱だけは二音節語である(三焦は複合語)。このうち精神と思考、こころの中枢が心臓であるのに対し、体力と気力、ちからの中枢は肝臓とされる。かくて肝は「干(音・イメージ記号)+肉(限定符号)」合わせて、体の中心にあって体力・気力を強くする臓器を暗示させる。
「中心となるもの」というコアイメージから、中心となるポイント、大切な所という意味に展開する。これが肝要の肝である。