「冠」

白川静『常用字解』
「会意。冖は覆いの形であるが、冠は完・寇と同じように廟の中で行われる儀礼をいう字であるから、冖ではなく宀に従うべきである。元は頭部を大きくかいて強調した形で、首・頭の意味がある。廟の中で、手(寸)で元(頭)の髪を結い、頭に冠をつけている形で、男子の成人式である元服の儀礼をいう」

[考察]
冖ではなく宀の誤りとするが、もし宀が正しいとすると、冠と寇がほとんど同じ構図になってしまう。元服式が廟で行われるから宀でないと都合が悪いのであろうが、そもそも宀を廟の屋根に限定するのがおかしい。また、冠を「廟の中で髪を結い、頭に冠をつける元服式」の意味とするが、この式の前提として冠がなければならない。「かんむり」の意味が先にあって元服式の意味はそれから派生したと見るのが、意味展開の筋道であろう。元服式から「かんむり」の意味が出たというのは逆さまと言わざるを得ない。
字形から意味を引き出すのが無理な方法である。意味は字形にあるのではなく言葉にある。語源を先に究明し、後に字源に移るのが漢字の正しい見方である。冠の古典における用例を見てみよう。
 原文:庶見素冠兮
 訓読:庶(ねが)はくは素冠を見ん
 翻訳:白い冠[の人]にお会いしたい――『詩経』檜風・素冠

冠は「かんむり」の意味で使われている。これを意味する古典漢語がkuanであり、これの表記として冠という視覚記号が考案された。kuanは官と同音であり、官は「丸く取り巻く」というコアイメージをもつ(211「官」を見よ)。
冠とは礼装用の帽子の一種である。日本語の「かんむり」はカウブリの転で、頭にかぶるものの意。覆ってかぶせるというイメージである。英語のclown(王冠)はcurve(曲がる)と同根で、頭にかぶせる花輪が原義という(『英語語義語源辞典』)。これは頭に丸く取り巻くというイメージである。古典漢語の冠は日本語の「かんむり」、英語のclownと語源的に非常に似ている。
「丸く取り巻く」というイメージを表す記号が元である(209「完」を見よ)。かくて「元(音・イメージ記号)+冖(覆い、覆いかぶせることを示すイメージ補助記号)+寸(手の動作に関わる限定符号)」を合わせた冠が成立した。覆い(かぶり物)をかぶせて頭を丸く取り巻く情景を設定した図形で、この意匠によって「かんむり」を暗示させる。