「寒」

白川静『常用字解』
「会意。古い字形は、宀と茻と人と冫(氷)とを組み合わせた形。宀(建物の屋根の形)の中に草(茻)を敷きつめ、そこに人が居り、下に氷がある。寒さを避けて草を敷きつめる形で、“さむい”という意味を示している」

[考察]
形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。言葉という視点は全くない。形から意味が出るのではなく、言葉があり、それには意味があるから、言葉の使い方を調べれば意味がわかる。まず言葉の説明があり、次に字源の説明になるのが正しい漢字の見方である。
寒は『詩経』に寒暑(寒さと暑さ)、寒泉(冷たい泉)のように使われている。これを意味する古典漢語がɦan(呉音でガン、漢音でカン)であり、これに対する視覚記号として寒が考案された。寒はさむいという意味だが、ɦanはどんなイメージをもつ言葉か。これは語源の問題である。古人は「寒は扞(つかえる)なり」と語源を説いている。さむさは物を固く引き締めるし、動きをにぶくする。だから「固くつかえる」というイメージで捉えられた。蹇ケン(足がまっすぐ伸びず動作がにぶい)・騫ケン(足が悪くて動きのにぶい馬)・褰ケン(長い裾を短く引き締める)・謇ケン(言葉がつかえて出ない)などに寒のコアイメージが生き残っている。
次に字源の話に移る。寒を分析すると「宀(屋根)+茻(屮を四つ重ねた形)+人+冫(氷)」となる。これは人が屋根の下で敷物をかぶって氷の冷たさに震えている情景を設定した図形。これが寒の図形的意匠である。具体的な情景を造形することによって、「さむさ」という抽象的な意味を暗示させる。