「喚」

白川静『常用字解』
「形声。音符は奐。奐は獣が股を開いて生んでいる子を、人が両手で取り上げている形である。子が勢いよく生まれる様子を渙然という。生まれるとき大声を出すことを喚といい、“よぶ、わめく”の意味に用いる」

[考察]
子が勢いよく生まれる様子とある子は獣の子であろうか。渙に獣の子が勢いよく生まれるという意味はあり得ない。渙は氷が解ける様子で、渙然氷釈のような使い方がある。
奐の上部の「ク」は危や負の上部と同じで、人のしゃがんだ形である。奐は「ク(しゃがんだ人)+㓁(尻または骨盤の形)+廾(両手)」を合わせて、女性の股に両手を出して、子を取り上げようとする様子で、お産の情景である。もちろんお産を意味するのではない。出産は骨盤を開いて、胎児を抜き出す行為である。ここから「ゆとりを開けて中身を抜き出す」というイメージが捉えられる。これを表す言葉がhuanであり、奐で表記する。奐は「内部をゆったりと開けて、そこから中身が↲↳(↙↘)の形に出ていく」というイメージにつながり、ここから四方に広がって出ていく(発散する)というイメージが生まれる。このイメージから渙然の渙(氷が解けて水が四方に散り広がる)の意味が実現される。喚もこのイメージで造語された。「奐(音・イメージ記号)+口(限定符号)」を合わせて、のどから声を出して、それが四方に広がっていく状況を暗示させる。この意匠によって、大声を出して呼ぶことを意味する古典漢語huanの視覚記号とした。
会意的に解釈すると子が生まれるとき大声を出すから「わめく」の意味といった解釈になるが、これは間違いである。形声的に、すなわち語の深層構造から意味を考えるべきである。