「堪」

白川静『常用字解』
「形声。音符は甚。甚は鍋を竈の上にかけた形で、おきかまどをいう。竈を土の中に作ったものが堪で、この中で陶磁器を焼いたのであろう。それで堪には高熱に“たえる”、また“すぐれる”の意味がある」

[考察]
勘では会意としているが、本項では形声とする。不統一である。堪に土の中で作った竈という意味があるだろうか。そんな意味はなさそうである。更に陶磁器を竈で焼くから、「高熱にたえる」に意味が出たという。字形からあり得ない意味を導いた。

言葉という視点から出発し、用例を調べることが先である。古典に次の用例がある。
 原文:未堪家多難
 訓読:未だ家の難多きに堪へず
 翻訳:家に災難が多いのにたえられない――『詩経』周頌・訪落

堪は持ちこたえる意味で使われている。深くて重い圧力が→の方向からかかってくると、抵抗する力が←の方向に働いて支えようとする。このようにして持ちこたえることを古典漢語ではk'əm(呉音でコム、漢音でカム)といい、これの視覚記号として堪が考案された。甚は「(程度が)深い」というイメージがあり(217「勘」を見よ)、「厚みや幅が深い」という空間的なイメージにも転じる。「甚(音・イメージ記号)+土(限定符号)」を合わせて、土が分厚く存在する場面を設定した。この図形的意匠から重みを下で支えるというイメージを暗示させ、「じっと持ちこたえる」を意味するk'əmを堪で表記した。