「換」

白川静『常用字解』
「形声。音符は奐。奐は獣が股を開いて生んでいる子を、人が両手で取り上げている形で、子が生まれるときの姿勢である。奐は新しい生命が生まれることであるが、それが交換(とりかえる)の意味となった過程はよくわからない。“かえる、かわる”の意味に用いる」

[考察]
形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。奐は子が生まれるときの姿勢から、「新しい生命が生まれる」の意味が出たという。しかし交換の換との関係はわからないと、結局字源を放棄した。白川漢字学説には形声の説明原理がないから、これも当然かもしれない。
形から意味を導くと、あり得ない意味が出てくる可能性がある。奐の「新しい生命が生まれる」はその例である。意味は形にはなく言葉にある。言葉の意味を知るには古典における文脈から探る必要がある。次の用例がある。
 原文:時換吏卒署。
 訓読:時に吏卒の署を換ふ。
 翻訳:時々兵士の持ち場を取り換える――『墨子』備城門

換は取り換える意味で使われている。日本語の「かえる(かふ)」は「二つのものを互いに入れ違いにする」ことから「状態や質を別のものに入れかえ、変わらせる」の意味に転じる(『岩波古語辞典』)。古典漢語では逆に「変わる」から「代える」に転義することがある。例えば変易の易(変わる)から交易の易(代える、換える)の意味に転じる。古典漢語のɦuan(換 )もこれと似た転義現象である。奐は出産という行為から発想され、「中身を抜き出す」というコアイメージがある(221「喚」を見よ)。中身を抜き出した結果、事態や状況が別の事態や状況に変わったと見ることができる。したがって「中身を抜き出す」というイメージから「中身をかえる」のイメージが生じる。かくて「奐(音・イメージ記号)+手(限定符号)」を合わせて、中身を抜き出して中の状況を変える→Aという物や事態をBという物や事態と置き換えることを換の図形で暗示させる。