「勧」
正字(旧字体)は「勸」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は雚カン。雚は鸛(こうのとり)で神聖な鳥とされ、鳥占いなどに使われたものと思われる。力は耒の形。それで鳥占いによって農作物の豊作か凶作かを占い、それによって神意を得ることを勧といったものと思われる。すなわち農作業に“つとめる、いそしむ”の意味である」

[考察]
形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。雚(こうのとり)+力(すき)→鳥占いによって農作物の豊凶を占い神意を得る→農作業につとめるという意味を導く。
「こうのとり」と「すき」という僅かな情報から夥多な情報を引き出したが、結果は「農作業につとめる」というあり得ない意味である。
意味とは何か。意味とは言葉の意味である。それは古典における具体的な文脈から判断され把握されるものである。勧は次のような文脈で使われている。
 原文:使民敬忠以勸、如之何。
 訓読:民をして敬忠にして以て勧めしむるには、之を如何せん。
 翻訳:尊敬と忠義の心をもって人民に仕事をするように励ましすすめるすには、どうしたらよいでしょうか――『論語』為政

勧は励ましてすすめる意味で使われている。農作業につとめる意味ではない。脇から人に何かをするようにと励ましてすすめる意味である。これを意味する古典漢語をk'iuăn(呉音ではコン、漢音ではクヱン)といい、勸の図形で表記する。これはどういう意匠か。ここから字源の話になるが、字源は語源と密接なつながりがある。雚が語の深層構造と関わりのある記号である。雚は白川のいう通り鸛(コウノトリ)である。しかし形声文字では実体に重点があるのではなく、形態や機能に重点がある。コウノトリの生態や習性からイメージが取られる。コウノトリは雌雄がそろって巣の上で子育てをする習性があり、夫婦仲のよい鳥とされた。したがって「同じようなものが左右にバランスよくそろう」というイメージを示す記号として雚が用いられる。雚を分析すると「卝(二つの頭)+吅(二つの口)+隹(とり)」となり、雌雄が▯-▯の形に仲良く並んでいる鳥を暗示させている。だから雚は「▯-▯の形に並ぶ」「バランスよくそろう」というイメージを示す記号となる。「雚(音・イメージ記号)+力(限定符号)」を合わせた勸は両脇から中心の人をもり立てて、何かをするように力づけてやる情景を設定した図形。この意匠によって、人に何かをするように励ましてすすめる意味をもつ k'iuănの視覚記号とした。