「漢」
正字(旧字体)は「漢」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は𦰩。もと陝西省から東南方向に流れている川の名で、漢水といった」


[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく、すべての漢字を会意的に説くのが特徴。しかし𦰩からの説明ができないので、固有名詞とした。
漢は最古の古典の一つである『詩経』では川の名のほかに、天の川の意味で使われている。これが最初の意味である。
 原文:維天有漢 監亦有光
 訓読:維れ天に漢有り 監(かんが)みて亦(また)光有り
 翻訳:空にあるのは天の川 下に臨んで光ってる――『詩経』小雅・大東

熟語の雲漢(天の川)も『詩経』に出ている。古典漢語では天の川のことをhanといい、これに対する視覚記号を漢とした。𦰩は現在は単独字ではないが、堇キンの構成要素となっており、また漢・難・嘆などで音・イメージ記号、またはイメージ記号として用いられる。堇を分析すると、𦰩がどういうコアイメージをもつ記号であったかが判明する。堇は「𦰩+土」と分析できる。𦰩は「革+火」を合わせて、革をあぶって乾かしている図形である。乾くと水分が抜けて無くなる。だから𦰩は「乾く」のイメージのほかに、「尽きる」「わずか」「少ない」というイメージを表すことができる。𦰩に土を添えた堇は乾いた粘土のことであるが、これも𦰩と同じイメージを表すことができる。こように𦰩のグループ(漢・難・嘆・歎)ものグループ(僅・勤・謹・菫・槿)も同源の語として概括することができる。
さて漢は「𦰩(カン)(音・イメージ記号)+水(限定符号)」と解析する。𦰩は「水分が尽きる」「乾く」というイメージがある。だから漢は水の無い川を暗示させる。古典漢語では、地上の川は水の有る川だが、天上に川のように見える星を「水の無い川」と見て、天の川をhanと命名したのである。地上にある川の一つが天上の川になぞらえられて漢水という名がつけられた。ここから地名、国名、民族名などに発展する。