「慣」

白川静『常用字解』
「形声。音符は貫。貫は貝を貫き綴じて一連としたものをいい、貫通の意味となる。それで時間的に、つながる、続く、久しいという意味になるので、その心情を加えて、“なれる、ならす”の意味に使う」

[考察]
意味の展開の説明がぎくしゃくとして分かりにくい。(空間的に)貫通する→時間的につながる・続く・久しいという展開は分からないでもないが、貫に心(心情)を加えて、「なれる、ならす」の意味に展開するというのが分かりにくい。
白川漢字学説は形声の説明原理がない。言葉という発想がないからである。形声とは言葉の深層構造に掘り下げて語のイメージを捉える造語法であり、また語源を探求する方法でもある。慣は貫にコアイメージの源泉がある。これを捉えることが重要である。貫は「突き抜ける」「つらぬき通す」というコアイメージがある(219「貫」を見よ)。これは空間的に穴などを線条のものが突き抜けるというイメージである。空間的イメージは時間的イメージにも転化する。そうすると、時の流れの中を一本の筋が通っていくというイメージである。一本の筋が時点時点で変わることなく流れていくのは、同じ事態が繰り返されるからである。時間的イメージは心理的イメージにも転化する。そうすると、同じ事態の繰り返しでなじむという意味が生まれる。これを慣という。慣は「貫(音・イメージ記号)+心(限定符号)」を合わせた図形で、時を通して同じ事態が繰り返されてなれることを表している。時を通して変わらずに繰り返されてきた事柄が「ならわし」(習慣)である。