「緩」

白川静『常用字解』
「形声。音符は爰エン。爰は一つのものを上下から手で援(ひ)く形で、引くという意味がある。それで緩とは、“ゆるやか”に糸を援くことをいう字であろう」

[考察]
爰は「引く」という意味だから緩は糸を緩やかに引く意味としている。字形からストレートに意味を導くのが白川漢字学説の特徴である。しかし緩にそんな意味はない。意味とは言葉の意味であって、字形の意味ではない。古典における緩の用法を見てみよう。
 原文:三人緩帶。
 訓読:三人、帯を緩む。
 翻訳:三人は帯をゆったりとゆるめた――『春秋穀梁伝』文公十八年

緩は幅をあけてゆったりさせるという意味で使われている。ゆったりさせる行為の前提には緊張した状態がある。ɦuanという語のコアイメージは「緊張した状態をゆったりさせる」ということである。①は空間的にゆるめる意味で、緩衝の緩はこれ。時間的に幅をあけてゆったりする意味にも展開する。これが緩慢の緩。更に心理的・精神的に緊張した状態を解く意味もある。これが緩解の緩。
緩は「爰(音・イメージ記号)+糸(限定符号)」と解析する。爰は「引っ張る」と「隙間をあけてゆったりさせる」というイメージがある(77「援」を見よ)。AとBを両方に引っ張ると二つの間は幅ができ間延びする。引っ張る→間延びするというイメージを生む。だから爰は「引っ張って間延びさせる」「隙間をあけてゆったりさせる」というイメージを表す記号となる。したがって緩は紐の結び目に手や道具を差し入れて、間をあけてゆるめる情景を設定した図形。この図形的意匠によって、(緊張した状態に)幅や隙間をあけてゆったりさせるという意味をもつ古典漢語ɦuan(呉音ではグワン、漢音ではクワン)の視覚記号とした。