「鑑」

白川静『常用字解』
「形声。音符は監。監は水を入れた水盤にうつむいて自分の姿を映している形で、水鏡をいい、“かがみ、みる” という意味がある。監が鑑のもとの字である。青銅や銅・鉄で作られるので鑑の字が作られた」

[考察]
おおむね妥当な説であるが、字形から意味を導くのが難点。言葉から出発し、その言葉がどのように図形化されたかを考えるのが正しい漢字の説き方である。漢字は古典漢語の書記体系で、古典はすでに漢字で表記されている。だからと言って、字形に意味があるのではなく、それが代替している言葉に意味があるのである。鑑は次のように使われている。
①原文:我心匪鑑
 訓読:我が心は鑑に匪(あら)ず
 翻訳:私の心はかがみではない――『詩経』邶風・柏舟
②原文:宜鑑于殷
 訓読:宜しく殷に鑑(かんがみ)るべし
 翻訳:殷[の失敗]を戒めとしなさい――『詩経』大雅・文王
③原文:殷鑑不遠
 訓読:殷鑑遠からず
 翻訳:殷の戒めは遠い話ではない――『詩経』大雅・蕩

①はかがみの意味、②は手本や前例に照らして反省する意味、③は戒めとなる手本や前例の意味である。②③は①からの展開で、非常に古く転義が発生したことが分かる。意味展開の過程は、かがみの意味から、かがみに姿を映して見る意味を経て、②および③へと展開する。更に、教えてくれる手本の意味(図鑑・年鑑)、照らし合わせて本当の姿をはっきりと見分ける意味(鑑識・鑑賞)、本物かどうかを見分けるものの意味(印鑑・門鑑)へと展開する。
鑑は監から派生・展開する語である。監は水鏡から発想された言葉で、「一定の枠の中に収める」というコアイメージがある(238「監」を見よ)。「監(音・イメージ記号)+金(限定符号)」を合わせた鑑は、一定の枠の中で姿を映す金属製のかがみを暗示させる。