「顔」
正字(旧字体)は「顏」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は彦(彥)。 彥は厂(額の形)に文(文身、入れ墨)を加え、その色の美しさを彡で示している字である。頁は儀礼のときに礼拝している人の形である。顔とは、一定の年齢に達した男子が、額に美しい入れ墨を描き、おごそかに成人式をしているときの顔つきをいい、“かお”の意味となる」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。形声の説明原理がないので、すべて会意的に説かれる。彥(額に入れ墨を加える)+頁(礼拝する人)→男子が額に入れ墨を描き、成人式をしているときの顔つき、という意味を導く。
しかし顔にこんな意味はない。最古の古典では次のように使われている。
 原文:子之清揚 揚且之顏也
 訓読:子シの清揚なる 揚にして且つ顔ガンなり
 翻訳:目元の涼しく明るい貴女 眉が上がって広い額よ――『詩経』鄘風・君子偕老

注釈では「顔は額なり」とある。「ひたい」が最初の意味で、「かお」は意味の拡大されたものである。後世では「ひたい」を額という。顔と額は音が似ている。
顔は「彥ゲン(音・イメージ記号)+頁(限定符号)」と解析する。彥を分析すると「文+厂+彡」となる。厂はᒥの形を示す象徴的符号。岸ガンにも厂が含まれている(250「岸」を見よ)。文は文様、飾り、人工的な美しさのイメージを添える記号。彡はひげ(鬚)や髪の形で、頭部と関係があることを示す限定符号。したがって「厂カン(音・イメージ記号)+文(イメージ補助記号)+彡(限定符号)」を合わせた彥は、横顔(額の部分)がᒥの形にくっきりと美しく整った状態を暗示させる(実現される意味は美男子)。かくて顔面のうちでᒥの形をなしている部分、つまり「ひたい」を顔の図形で表した。