「気」
正字(旧字体)は「氣」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は气。气は雲の流れる形で、雲気をいう。气は生命の源泉、おおもととされ、米(穀類)はその気を養うもとであるというので、气に米を加えて氣となった」

[考察]
气を雲気とするが、雲の気とは何か。雲の気が生命のおおもとという観念があったとは思えない。
気の語源については『釈名』に「気は愾ガイなり。愾然として声有りて形無きなり」とある。いっぱい立ち込めているが、声だけあって形のないものと解釈している。気は愾(胸にいっぱに感情がこもるさま)と同源で、「いっぱい立ち込める」というイメージがあるとする。これが正解である。ある空間内(宇宙と人間を含めて)に存在する目に見えない根源物質という概念が気である。ただしこれはかなり抽象化されたもので、具体的なものから発想された。それは湯気である。穀物を炊くときにもやもやとしたもの(蒸気)がいっぱいに立ちこめる。この状況から発想されて、目に見えるもの、見えないものに関係なく、ガス状の物質(気体)を想定し、これをk'iəd(呉音ではケ、漢音ではキ)と名づけ、これの視覚記号として氣が考案された。
次に字源に移る。「气(音・イメージ記号)+米(限定符号)」と解析する。气はガス状のものがもやもやと屈曲しつつ上がって行く様子を暗示させる図形である。したがって氣は米を炊くとき、湯気が出て釜の中にいっぱい立ち込める情景を設定した図形。この意匠によって、一定の空間内に満ちていると想像されたガス状の物質を表している。
意味は、ガス状の物質(気体・気息)→宇宙に充満する根源的物質(運気・元気)→自然の現象を引き起こす力やエネルギー(気候・気象)→身体・精神に生命や活力を与えるもの(血気・精気)などの意味に展開する。