「肌」

白川静『常用字解』
「形声。音符は几。説文に“肉なり”とするが、むしろ皮膚を主としていう語で、“はだ” をいう」

[考察]
白川漢字学説では形声の説明原理がなく、すべて会意的に説くのが特徴である。本項では几からの説明ができないので字源を放棄した。
白川は肌を皮膚の類と見て「はだ」の意味としている。漢語では体表を覆うものは皮(かわ)、または膚(はだ)という。では肌とは何か。『韓非子』に「仁もて其の肌を割く」([医者は]仁の心から彼の筋肉を割いた)という用例がある。皮膚の内側にある柔らかい組織を肌と言っている。肌は本来は「はだ(膚)」ではなく、筋肉の一種である。だから『説文解字』で「肌は肉なり」としている。体表の「はだ」の意味はその転義である。
次に字源に移る。「几(音・イメージ記号)+肉(限定符号)」と解析する。几は机の項で述べたように(258「机」を見よ)、肘掛けの意味である。これはテーブルのような大型の道具ではなく、片肘を乗せるぐらいの、丈が低く面積の小さな道具である。だから几は「小さい」というイメージがある。ここから「細かい」「少ない」などのイメージに転化する。かくて肌は、肉体の、細かい組織がびっしりとある部分を暗示させた。