「軌」

白川静『常用字解』
「形声。音符は九。車の輿の下の両輪の間を軌という」

[考察]
漢字の成り立ちを会意的に説くのが白川漢字学説の特徴であるが、九の説明がつかないので、字源を放棄した。意味も取り違えている。上の意味では下記の文献の軌が理解できない。
軌の具体的な用例を見てみよう。
 原文:濟盈不濡軌
 訓読:済盈ちて軌を濡らさず
 翻訳:済の川が満ちると車軸の頭を濡らさない[車を川に乗り入れて渡らない]――『詩経』邶風・匏有苦葉

軌は車軸の両端の意味である。これを古典漢語ではkiuəg(呉音・漢音ではクヰ)といい、軌と表記する。これは「九(音・イメージ記号)+車(限定符号)」と解析する。九は腕を曲げた形である。伸びていくものが曲がると終点でつかえて、それ以上は進めなくなる。最後の所で止まる。九は「つかえて曲がる」「究極、きわまる」「最後のどん詰まり」というイメージを表す記号である(313「九」を見よ)。九を数の名に用いるのは、十進法では9は基数の最後だからである。
車軸は轂(こしき、ハブ)を通り抜けて外に両端が出る。ここを金具で止めて抜けないように固定する。この両端の部分を軌の図形で表す。軌の図形的意匠は「車軸が穴を通っていってつかえて止まった末端」ということである。
意味は車軸の両端→車輪の幅→車輪の通る跡と展開する。