「姫」
正字(旧字体)は「姬」である。

白川静『常用字解』
「会意。𦣝は乳房の形。女に乳房を加えて成人に達した女子をあらわす。古代では“ひめ” は“ひこ”に対して女性一般の意味であった。のち高貴な人の娘や、きさきをさしていうようになった」

[考察]
字形からストレートに意味を導くのが白川漢字学説の特徴である。女(おんな)+𦣝(乳房)→成人に達した女性の意味を導く。
しかし姫(キ)はそんな意味ではなく、最初から下記の文献に見える意味であった。𦣝(イ)は頤(あご、おとがい)の意味であり、乳房という解釈は突飛である。
姫の用例を見てみよう。
 原文:彼美淑姬 可與晤言
 訓読:彼の美なる淑姫 与(とも)に晤言すべし
 翻訳:あの美しい姫とは 一緒にお話しできる――『詩経』陳風・東門之池

姫は高貴の女性の意味で、また貴族の姓の一つであった。姬は「𦣝イ(音・イメージ記号)+女(限定符号)」と解析する。𦣝は二重あごを描いた図形である。あごという実体に重点があるのではなく、形態に重点がある。二重あごの形から「広くゆったりしている」「ふくよか」などのイメージが取られる。ある女性の特徴、すなわち、肉体的にふくよかで物腰がゆったりしている姿という意匠が「姬」にこめられている。