「基」

白川静『常用字解』
「形声。音符は其。其は箕(四角形のちりとり)・丌(キ) (物を置く台)を示す字で、四角形のもの、また台座の意味がある。それで土で壇を築いて建物の基礎・土壇とすることを基といい、“もと、もとい”の意味となる」

[考察]
ほぼ妥当な説であるが、白川漢字学説は形声の説明原理がなく、会意的手法を用いるので、其に「四角形のもの、台座の意味がある」とする。しかし其にはそんな意味はない。意味とは言葉の意味であって、文脈に実際に使われる意味である。其は「その」「それ」という指示詞に使われる。
形声の説明原理とは言葉の深層構造を掘り下げ、コアイメージから意味を捉える手法である。音符といわれる記号は音と関わるだけでなく、コアイメージと関わる記号である。しかも音符は発音符号ではなく、記号素の読み方を暗示させるだけである。だから音符という用語はふさわしくなく、音・イメージ記号と呼ぶのがよい。
基は其が語の深層構造に関わる部分で、音・イメージ記号である。其はgiəgの音形をもち、建物の土台(基礎)という意味の古典漢語kiəgを暗示させる。それと同時に「四角い」というコアイメージを暗示させる。建物の基礎はたいてい四角い形であり、四隅には必ず配置されるから、四角い形態をなしている。其は音とイメージを暗示させる記号である。其がなぜ「四角い」というイメージを示すことができるのか。それは具体的なものから発想されたからである。それは箕という道具である。箕は穀類の殻やごみを選り分ける道具で、四角い形をしている。「箕の形+丌(物を載せる台の形)」を合わせたのが其であり、其で「四角い」というイメージを表すことができる。かくて「其(音・イメージ記号)+土(限定符号)」を合わせた基という図形でもって、建物の土台を意味するkiəgを表記した。
以上歴史的、論理的に基の成立を述べた。字形から意味が出るのではなく、意味のイメージを図形にどう表現したかを探求するのが正しい漢字の解釈である。