「揮」

白川静『常用字解』
「形声。音符は軍。軍は車の上に旗がなびいている形で、その旗を振って軍を動かすことをいう字である。揮はのちには手を“ふるう、うごかす” の意味に使う」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。車の上に旗がなびいている形→旗を振って軍をうごかすこと、と意味を導く。軍にそんな意味があるのか。「軍を動かす」の軍とは何か。これが肝心ではなかろうか。軍の意味があって初めて「軍を動かす」と言えるはずである。
また、旗を振るって軍を動かすことから揮は「ふるう、うごかす」の意味になったという。
意味とはいったい何か。言葉の意味であることは明白。言葉が具体的文脈で使われるときに把握されるのが意味である。端的に言えば言葉の使い方である。揮は次の用例がある。
 原文:揮戈而撝之。
 訓読:戈を揮ひて之を撝(さしまね)く。
 翻訳:ほこをぐるぐる回して合図した――『淮南子』覧冥訓

揮は手を丸く振り回す意味で使われている。揮は「軍(音・イメージ記号)+手(限定符号)」と解析する。古典に「軍は圜囲(丸く囲む)なり」と語源を説くように、「丸く取り囲む」というイメージがあり(414「軍」、50「運」を見よ)、円陣を作って集まる兵士の集団のことである。具体は捨象して「↺の形に丸く取り巻く」というイメージだけが用いられる。したがって揮は手を↺の形にぐるぐる回す情景を暗示させる。この意匠によって、「手をぐるぐる振り回す」を意味する古典漢語hiuər(呉音ではクヱ、漢音ではクヰ)を表記する。
手を振るようなしぐさをして何かを行う(振るう、動かす、揺らす、散らすなど)の意味(指揮・発揮などの揮)はその転義である。