「期」

白川静『常用字解』
「形声。音符は其。其は箕(四角形のちりとり)の形で、方形の、一定の大きさのもののの意味がある。それで時間の一定の長さを期という」

[考察]
其は「方形の、一定の大きさのもの」という意味があるというが、其にそんな意味はない。其は「その」「それ」という指示詞に使われる。意味とは言葉の意味であって字形にはない。具体的文脈で実際に使われる言葉から判断され把握されるのが意味である。白川漢字学説には形声の説明原理がなくすべて会意的に説く。Aの意味とBの意味を合わせたのがCの意味とする。AとBの字は同等の役割が与えられる。しかし形声の原理ではAは音・イメージ記号、Bは限定符号であって、AとBは同列の記号ではなく、レベルが違い、役割が違う。
では期をどう解釈するか。まず古典の用例を見てみよう。
①原文:君子于役 不知其期
 訓読:君子役に于(ゆ)き 其の期を知らず
 翻訳:背の君は戦に行ったきり 帰りの日時が分からない――『詩経』王風・君子于役
②原文:三年之喪、期已久矣。
 訓読:三年の喪、期すら已(すで)に久し。
 翻訳:三年の喪[父母の喪]について言えば、一年でも長すぎる――『論語』陽貨

①は一定の区切られた時間(取り決めた日時)、②は一年という意味で使われている。これを古典漢語ではgiəg(呉音ではゴ、漢音ではキ)という。これに対する視覚記号が期である。これは「其キ(音・イメージ記号)+月(限定符号)」と解析する。其は「四角い」というイメージを示す記号である(277「基」を見よ)。イメージであって意味ではない。イメージは語の深層構造、すなわちコア(根底、核))にあるイメージである。深層構造のコアイメージが表層に現れたものが意味(具体的文脈で実現される意味)である。「四角い」のイメージを図示すれば囗の形である。視座を変えると、角に四つの地点があり、これに動きを与えると、出発点から順次に一周して元に戻る形と見ることもできる。
一年という時は春夏秋冬の四つの季節に分けられる。春→夏→秋→冬と、四つの時点を一巡する。一か月は月が朔→上弦→満月→下弦という四つの時点を経めぐる。ここに「(特定の時点を)きちんと区切る」というイメージがある。四つの季節に区切られた時間、すなわち一年のことをgiəg(呉音ではゴ、漢音ではキ)といい、朞で表記し、また、きちんと区切られた一定の日時を同じくgiəgといい、期で表記した。のちに期が朞(一年)もカバーするようになった。