「貴」

白川静『常用字解』
「会意。𦥑と貝を組み合わせた形。𦥑は左右の手を合わせた形。貴は貝を両手で捧げ持つ形で、貴重なものとして扱うという意味を示す」

[考察]
 字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。𦥑(両手)+貝(子安貝、貨幣)→貴重なものとして扱うという意味を導く。
白川漢字学説には形声の説明原理がなく、すべて会意的に説く。貴重なものというのは貝から連想されたものであろう。貴の意味を説明するのに貴重という語で説明するのは同語反復である。結局貴重の貴が分からない。
意味は字形から出るのではなく、言葉の使い方から出る。古典の文脈から求めるべきである。貴は次の用例がある。
 原文:踴貴而屨賤。
 訓読:踴ヨウは貴(たか)くして屨(くつ)は賤(やす)し。
 翻訳:[刑罰が厳しいため]足切り者用の靴は高く、一般の靴は安い――『韓非子』難二

貴は物の値打ちが高い、また、物価が高い意味で使われている。これを古典漢語ではkiuəd(呉音・漢音はクヰ)という。これに対する視覚記号が貴である。貴の篆文は「㬰キ(臾は変形)(音・イメージ記号)+貝(限定符号)」と解析する。㬰は簣(あじか)の古文の字体で、簣の古字といってよい。あじかは土などを運搬する道具である。あじかという実体に重点があるのではなく、機能に重点がある。あじかの機能は空っぽな所に物を満たした後、物を外に移して空にし、次々に運ぶことにある。「満たす」と「空っぽ」が交互に繰り返される。だから貴は「満たす」と「空っぽ」のイメージを表すことができる(29「遺」を見よ)。貝は財物や貨物に関係のある状況を設定するための限定符号である。したがって貴は財貨がいっぱい満ちている情景を暗示させる。この図形的意匠によって、物の値打ちが高いことを意味するkiuədを表記する。
意味は物の値打ちが高い・物価が高い→身分が高い→値打ちのあるものとして大事にする(たっとぶ)→大事な・大切な(たっとい)と展開する。