「騎」

白川静『常用字解』
「形声。音符は奇。奇に単奇(ただひとつのもの)という意味がある。馬車は中央の馬の左右に驂というそえ馬をつけて三頭立てにすることがあるが、騎馬(乗馬)のときには一頭であるから騎という。馬に“のる、またがる”の意味」

[考察]
奇に「ただひとつのもの」という意味があるだろうか。確かに奇数の奇の使い方がある。しかし奇は数の「ひとつ」(one)の意味ではなく、偶をなさないから、一つ足りない、半端の意味である。だから三も五も奇という。
馬車では三頭、乗馬では一頭だから、騎は「馬にのる」の意味になったというが、この意味展開には合理性がない。
騎は古典では次のように使われている。
 原文:龍之爲蟲也、柔可狎而騎也。
 訓読:竜の虫為(た)るや、柔にして狎らして乗るべきなり。
 翻訳:竜の性質はおとなしいので、馴らして乗ることができる――『韓非子』説難

騎は馬などに乗る意味で使われている。奇は「∠の形に傾く」「バランスを欠いて傾く」というイメージがある(265「奇」を見よ)。∠の形は視点を変えれば∧の形にもなる。したがって「奇(音・イメージ記号)+馬(限定符号)」を合わせた騎は∧の形に馬にまたがる情景を暗示させる。姿勢を∠の形に傾けて乗ると解釈してもよい。