「偽」
正字(旧字体)は「僞」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は爲。人と爲とを組み合わせて、人の行為に偽(いつわり)が多いというのは誤った解釈で、もとは変化して他のものとなるという意味であった。僞は化(かわる)と同じ意味の字であった。のちに仮偽(にせ)の意味から偽詐(いつわる)の意味となる」

[考察]
漢字を会意的に解釈するのが白川漢字学説の特徴であるが、爲からの説明がない。化と同じ意味と片付けている。字源を放棄した。「為」の項では「象を使役する」の意味から「なす、もちいる、つくる」の意味になったとしている。これでは為と偽の関係を説明できない。これを説明できるのはコアイメージという概念である。
爲という言葉と図形は象を手なずける(飼い馴らす)ことから発想されたものである(18「為」を見よ)。飼い馴らすとは自然の物を人工化すること、人工(作為)を加えることである。自然の物に手を加えて、人工的なものになる。ここに「Aというものに作為を加えて姿や性質の違ったBに変える」というイメージがある。人工的な粉飾(ごまかし)、作為の究極が「いつわり」である。これを古典漢語ではngiuar(呉音・漢音ではグヰ)という。これに対して「爲(音・イメージ記号)+人(限定符号)を合わせた僞が考案された。爲は「作為(人工)を加える」というのがコアイメージである。したがって僞は本物(自然の物)に作為(人間のしわざ)を加えて、うわべだけ本物らしく似せる状況を暗示させる図形。うわべだけ本物に見せかけて人を欺く(いつわる)ことが偽の意味である。