「戯」
正字(旧字体)は「戲」である。

白川静『常用字解』
「会意。䖒(キ)と戈とを組み合わせた形。豆(脚のついた器)の形の腰かけにかけた虎の皮を身に着けた者を、後ろから戈で撃つ形。これを撃つ所作事をするのは、戦勝を祈るときの舞楽であろう。戯は古くは軍の左軍・右軍という部隊名や戦うという意味に使われた。戦勝を祈るしぐさが、たわむれからかうしぐさに似ていると見るようになったからであろうと思われる」

[考察]
字形の解剖に疑問がある。「䖒+戈」に分析しながら、意味を導く場合には「豆(腰掛け)+虍(虎の皮を着た者)+戈(ほこ)」と三つに分析している。『説文解字』では「戈に従ひ䖒の声」の形声文字とし、これが通説。豆を腰掛け、虍を「虎の皮を着た者」とするのも他に例がなく、独断に過ぎる。また、戦勝を祈るしぐさと「たわむれる」を結びつけるのも不自然である。
古典における戲の用例を見てみよう。
①原文:聞牛談有力、請與之戲。
 訓読:聞く、牛談力有りと。請ふ之と戯ギせん。
 翻訳:牛談[人名]は力持ちと聞いています。どうか彼と力比べをさせてください――『国語』晋語
②原文:憂心如惔 不敢戲談
 訓読:憂心惔(や)くが如し 敢へて戯談せず
 翻訳:胸を焼くようなわが憂い 冗談を言う気もしない――『詩経』小雅・節南山

①は力比べをする意味、②はふざけ合う、冗談を言う意味で使われている。文献は②が古いが、意味は①が最初と考えられる。力比べの場面を祭りや宴会などの余興に想定したのが戲という図形である。これを分析すると「䖒キ(音・イメージ記号)+戈(限定符号)」となる。䖒は戲以外では使われないレアな記号である。レアな記号には特別なイメージが付与されることが多い。䖒を分析すると「虍+豆」となる。豆はたかつきという器(食物や供え物を盛る)。虍は虎の上部だけを切り取ったもので、虎の頭の模様を示す記号。䖒は虎の頭の模様のあるたかつきという特別の器である。この意匠によって、神前における饗宴の場面を設定し、音楽や余興をしてにぎやかに楽しむ饗宴というイメージが作られた。この記号に限定符号の戈を添えて、武器を舞わして力比べの余興をする情景を暗示させる。力比べをすることを古典漢語でhiar(呉音ではケ、漢音ではキ)といい、戲で表記した。また余興をして楽しむ→ふざけ合う→冗談を言うと意味が転じた。