「議」

白川静『常用字解』
「形声。音符は義。義は犠牲として神に供える羊に欠陥のないことを確かめて正しいものであることをいい、議とは正しい道理を求めて論じはかることをいう。もとは神に“はかる” ことをいう字であろうと思われる」

[考察]
義の解釈の疑問については297「義」、299「儀」、306「犠」で指摘した。議を「神に謀る」の意味とし、「わが国の“祝詞”の中に“神議りに議りたまひて”(神の相談することとしてご相談なさって)とあるが、この“はかる”がもとの意味に近い」という。しかし議に神と相談するという意味があるだろうか。古典の用例を見てみよう。
①原文:未足與議也。
 訓読:未だ与(とも)に議するに足らず。
 翻訳:彼とは一緒に話し合えない――『論語』里仁
②原文:唯酒食是議 無父母詒罹
 訓読:唯酒食を是れ議り 父母に罹(うれ)ひを詒(おく)る無かれ
 翻訳:[女の子は]食事のことだけを心がけ 父母に心配かけぬように――『詩経』小雅・斯干

①は筋道をきちんと立てて話し合う意味、②はあれこれと思いはかる意味に使われている。ここから、あれこれと理屈をつけて批判するという意味にも転じる。これらの意味をもつ古典漢語がngiar、これに対する視覚記号が議である。義は「形がきちんと整っている」というイメージがあり、「きちんとした筋が通っている」というイメージにも転化する(297「義」を見よ)。したがって「義(音・イメージ記号)+言(限定符号)」を合わせた議は、話の筋道をきちんと整えて話す状況を暗示させる。この意匠によって①の意味を表すことができる。