「詰」

白川静『常用字解』
「形声。音符は吉。吉は、ᄇ(祝詞を入れる器)の上に神聖な鉞を置き、祈りの効果をᄇの中にとじ込めて守るの意味で、“つめる、つまる”の意味がある。祈りの効果をとじこめて、祈りごとが実現してよい結果が得られることを責め求めるので、“とう、せめる、なじる”の意味にも使う」

[考察]
疑問点は305「吉」と共通である。字形から意味を導くという誤った方法で、吉を「祈りの効果をᄇの中にとじ込めて守る」の意味とし、詰を「祈りごとが実現してよい結果が得られることを責め求める」の意味とする。前者から後者への意味展開は必然性がない。
言葉という視点が全くないのが白川漢字学説の特徴である。詰はどんな意味で使われているか、その語を用いた文脈に当たってみる。次の用例がある。
 原文:司寇掌邦禁、詰姦慝、刑暴亂。
 訓読:司寇は邦禁を掌り、姦慝を詰キツし、暴乱を刑す。
 翻訳:司法職は国の禁令を管掌し、悪人を追及し、暴動を処罰する――『書経』周官

詰は問い詰める(罪や責任を問うて責める)という意味で使われている。この意味の言葉を古典漢語ではk'iet(呉音ではキチ、漢音ではキツ)といい、詰と表記する。これは「吉(音・イメージ記号)+言(限定符号)」と解析する。吉は「中身がいっぱい詰まる」というイメージがある(305「吉」を見よ)。器に物を入れるという具体的な場面を想定すると、物を入れていくと底の方から上に達して満杯になる。空間的に余裕がなくなる。ここに「最後のどんづまりまで突き詰める」というイメージが生まれる。「満ちる」と「詰まる」は可逆的(相互転化可能な)イメージである。かくて詰は罪などをとことんまで突き詰める状況を暗示させ、①の意味をもつk'ietを表記しうる。
白川説では詰は「つめる・つまる」の意味で、「とう、せめる、なじる」の意味にも使うというが、詰に「つめる・つまる」という意味はない。意味とは文脈で実際に使われる意味である。詰は「突き詰める」「行き詰まる」という意味はあるが、詰め込む、間隔が詰まるという意味はない。これは日本語の意味である。漢字は日本的展開も無視できないが、本来の意味とは区別しないといけない。