「旧」
正字(旧字体)は「舊」である。

白川静『常用字解』
「会意。雈と臼とを組み合わせた形。雈はフクロウ科のみみずく。臼はうすではなく、鳥を捕らえるための道具。これにみみずくの足をからませて飛び去ることができないようにして捕らえることを舊という。みみずくは昼は目が見えにくいので、足をからめて捕りやすいのであろう。みみずくが足をとられて動くことができなくなって留まるので、“ひさしい” の意味、長時間たって“ふるい”の意味となる」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。雈(みみずく)+臼(鳥を捕らえる道具)→みみずくの足をからませて飛び去れないようにして捕らえるという意味を導く。
図形的解釈をストレートに意味としている。図形的解釈と意味を混同するのが白川漢字学説の特徴である。
意味とは何か。言葉の意味であって、字形の意味ではない。字形は言葉を表記する手段に過ぎない。言葉という視点がなく、字形だけを扱うのが白川漢字学説の特徴である。字形は何とでも解釈できる。字形から意味を導く方法は恣意的になる可能性があり、あり得ない意味が作り出されることもある。上の舊の意味はその典型である。
では意味をどうして知るのか。古典に使われる文脈から知ることができる。舊は次の用例がある。
 原文:席寵惟舊。
 訓読:寵に席(お)ること惟(こ)れ旧(ひさ)し。
 翻訳:寵愛を受けてから久しい――『書経』畢命

舊(旧)は時を経て古くなっている(古い、久しい)の意味で使われている。この言葉を古典漢語ではgiog(呉音ではグ、漢音ではキウ)という。これの視覚記号として考案されたのが舊である。これはどんな意匠をもつのか。
古人は「舊は久なり」と語源を説いている。久は「◠形に曲がる」というイメージがある。「曲がる」と「古い」は連合するイメージである(314「久」を見よ)。旧は久と同じようなイメージの転化があり、「時を経て古い」の意味をもつ言葉をgiogというのである。これの視覚記号である舊は臼が基幹記号となっている。臼は丘と同源であり、「◡形や◠形に曲がる」というイメージがある(317「丘」を見よ)。このように久・丘・旧は同源の語である。
舊は「臼(音・イメージ記号)+雈(イメージ補助記号、また限定符号)」と解析する。臼はうすであるが、実体に重点があるのではなく形態に重点がある。うすはへこんだ形なので「◡形に曲がる」というイメージがある。視点を変えると「)の形に曲がる」というイメージにもなる。雈はみみずくの意味であるが、白川説ではみみずくの足をからめて捕らえると解釈したが、なぜみみずくなのかの必然性がない。しかしみみずくの形態的特徴に着目すると必然性が出てくる。みみずくは背中が「)」の形に丸みを帯びた鳥である。したがってみみずくという具体物を設定することにより、「曲がる」という抽象的なイメージがはっきりと示せるのである。かくて舊は「みみずくのように背中が)形に曲がる」という情景を意匠とする図形であり、「曲がる」というイメージが「長い時間を経て古い」というイメージにつながるのである。これと似たイメージ転化現象は久にも見られる。