「救」

白川静『常用字解』
「会意。求と攴(攵)とを組み合わせた形。攴にはうつという意味がある。求は裘(皮衣)のもとの字で、剝ぎ取った獣の皮の形。この獣は霊の力を持つ特別の獣であり、その皮を殴つことによって、その獣を使って加えられている呪いや祟を祓うことができると考えられた。救はこの呪術によって祟を免れ救われることを示す字で、“すくう、たすける”という意味をもつ字である」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。「求(皮衣)+攴(うつ)」という僅かな情報から、祟をひき起こす獣と同じ獣を使って、その祟を祓うという呪術によって祟を免れ救われるという夥多な情報を読み取った。
求が裘の原字とするのは古来の定説だが、その皮は特別な獣の皮で、その獣には霊力があり、皮を打つことで祟りを祓うという具合に物語を膨らませていくが、なぜ裘が特別な獣から作った皮衣なのか、なぜその獣に霊力があるのか理由が分からない。霊力のある獣の皮を打つことが祟りを祓うことになるというのも分からない。
字形から意味を導くのは無理である。というよりも根本的に誤った方法である。というのは意味は言葉に属するものであって字形に属するものではないからである。言葉が文脈で使われる、その使い方が意味である。文脈に合わないのは意味ではない。文脈のない所に意味はない。救は次のように使われている。
 原文:凡民有喪 匍匐救之
 訓読:凡そ民喪(うしな)へる有れば 匍匐して之を救ふ
 翻訳:いったい人は物を無くせば 腹這いしてでも救おうとする――『詩経』邶風・谷風

救は手元に引き寄せて助ける(災難や難儀から人をすくう)という意味で使われている。この言葉を古典漢語ではkiog(呉音ではク、漢音ではキウ)といい、これに対する視覚記号を救とする。これは「求(音・イメージ記号)+攴(限定符号)」と解析する。求は「中心に向けて引き締める」というコアイメージがある(323「求」を見よ)。攴は一般に動作と関係があることを示す限定符号に使われる。したがって救は自分の方へ困った人を引き寄せる情景を暗示させる。困難に陥った人を自分の方へ引き寄せて助ける行為が救であり、日本語の「すくう」に当たる。