「給」

白川静『常用字解』
「形声。音符は合。合は金文では答の意味に使われていることがあって、他人からもらったものと同じだけのものを与えるの意味に使われている。給は目上の者が与える(たまう)の意味がもとの意味」

[考察]
「答」 の項では合は「器と蓋が相合うこと」から、「問いに対してこたえる」の意味になったとある。言葉のやり取りであって、物のやり取りではない。上では合は「他人からもらったものと同じだけのものを与えるの意味」という。給を「目上の者が与える」の意味とするのに引きずられたとしか思えない。

字形から意味を引き出そうとするのは無理である。言葉という視点、つまり語源的に検討する必要がある。その前に古典における用法を見てみよう。
 原文:孟嘗君使人給其食。
 訓読:孟嘗君、人をして其の食を給せしむ。
 翻訳:孟嘗君は人を遣わして彼に食事を十分に与えさせた――『戦国策』斉策

給は足りない所に継ぎ足す(足りないものを手当てする)という意味で使われている。この意味の言葉を古典漢語ではkiəp(呉音ではコフ、漢音はキフ)といい、給という視覚記号で表記する。
古人は「給は及なり」「給は急なり」と語源を説いている。及はA→Bの形にAがBに追いついて届くというイメージがあり、「A→B→C→Dの形に次々とつながる(続く)」というイメージに転化する(315「及」、327「級」を見よ)。Aが足りなくなるとBを継ぎ足す、次にC、次にDといった具合に、次々につなげていく。この行為をkiəpというのである。これの視覚的記号である給は、その行為を表現できるだろうか。ここから字源の話になる。
合は容器に蓋をかぶせる図形で、A(容器)にB(蓋)をぴったり合わせるというイメージがある(586「合」を見よ)。一方、空っぽで足りない所(A)に物(B)を重ね合わせるというイメージも合で表せる。かくて「合(音・イメージ記号)+糸(限定符号)」を合わせた給は、糸と関係のある場面(例えば裁縫や機織りなど)で、糸(A)が足りなくなると、ほかの糸(B)をそれに重ね合わせて付け足す情景を暗示させる。このような意匠が込められているので、給という図形は「足りない所に物を継ぎ足す」という意味のkiəpを表記するのに十分成功したと言える。