「牛」

白川静『常用字解』
「象形。正面から見た牛の形。前から見た羊の形の羊と同じかき方であるが、羊に比べて角が大きくかかれている」

[考察]
白川漢字学説では形から意味を導く方法を「字形学」と称している。「牛」の甲骨文字は角の特徴があるから「うし」の意味だろうと推測がつくが、絶対ではない。角の特徴を強調すると水牛ともシカとも取れる。なぜ「うし」だと分かるかと言えば、古典の文脈で「うし」の意味に使われており、字体的につながりがあると推測できるからである。要するに字形から意味が出るのではなく、意味を図形に表すと「牛」のような字形になる、と理解するのが正しい。
歴史的、論理的に述べると次のようになる。古典漢語では動物のウシをngiog(呉音ではグ、漢音ではギウ)といった。これは擬音語に由来するようである。ウシの鳴き声をngug(吽ゴウ)というが、これと似ている。ngiogを表記する視覚記号として「牛」が考案された。

漢字は字形が直接意味を表すのではなく、言葉の意味のイメージを図形として表すのである。その図形は言葉の意味とぴったり一致するとは限らない。一致しないことが多い。一致するのは象形文字のうちの小数の字に限られる。「大」という単純な字でさえ一致しない。図形は「両手両足を広げた人」である。しかしそんな意味を表すのではなく「おおきい・おおきさ」という抽象概念を表す。「両手両足を広げた人」は図形的解釈である。図形的解釈と意味は同じではないのである。では意味はどこにあるのか。言葉(古典漢語)にあり、言葉が使用される具体的な文脈にある。牛が「うし」の意味だと分かるのは古典の文脈から判断されたからである。