「居」

白川静『常用字解』
「会意。もとの字は凥に作り、尸と几キとを組み合わせた形。尸は祖先を祀るとき、祖先の霊の代わりになって祀られるかたしろ。几は机の形で、腰かけ。尸が腰かけに腰かけている形。居は凥の形声の字で、音符は古。古くは儀礼のときの蹲踞する姿勢をいい、“いる、うずくまる” の意味に用いる」

[考察]
居は形声文字だが、形声の説明原理を持たないのが白川漢字学説の特徴である。古からの説明ができないので(字源の放棄)、異体字の凥で説明している。尸(かたしろ)+几(腰掛け)→かたしろが腰掛けに腰掛ける→蹲踞する(うずくまる)と意味を導く。
蹲踞の姿勢は腰掛けに坐らないのではなかろうか。上の意味展開は納得がいかない。

居はどんな意味で使われているか、古典の用例を見てみよう。
 原文:維鵲有巢 維鳩居之
 訓読:維(こ)れ鵲に巣有り 維れ鳩之に居る
 翻訳:カササギの作った巣に カッコウが居すわる――『詩経』召南・鵲巣

居は腰を落ち着けて動かない(じっと坐る、居すわる)という意味で使われている。古典漢語ではこの行為をkiag(呉音ではコ、漢音ではキョ)という。これを表記する視覚記号が居である。これは「古(音・イメージ記号)+尸(限定符号)」と解析する。古は干涸らびたもの、生気を失ったものから発想された語で、「固い」というイメージと、「垂れ下がる」というイメージがある(499「古」を見よ)。生気を失って固くなると、その物は起き上がる力がなくなり、下の方へ垂れ下がるからである。「下へ垂れ下がる」というイメージは「下の方へ下がって落ち着く」というイメージに展開する。尸は尻と関係のある場面を作るための限定符号。したがって居は尻を下方に下ろして落ち着く情景を暗示させる。この図形的意匠によって、どっしりと腰を落ち着けて動かないことを意味するkiagを表記する。
ちなみに蹲踞の踞(うずくまる)は尻を下方に垂れ下げた形にしてじっと動かない姿勢、倨傲の倨(いばる)は尻を下ろして尊大に構える姿勢である。また裾(すそ)は衣の、地面に垂れ下がる部分である。