「拒」

白川静『常用字解』
「形声。音符は巨。巨は直角の折れ曲がった物差し(矩)の形で、一方が横に突出していて他の物とぴったりつき合わせにくい形であるから、他の物をこばむという意味がある。巨に手へんを加えて動詞とした拒は、“こばむ、ふせぐ”の意味となる」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。横に突出して他の物とつき合わせにくい形の物差し→他の物をこばむという意味を導く。「他の物とつき合わせにくい」とはどういうことか。定規は物に当てて角度や線を引いたり、幅を測ったりする道具であり、つき合わせにくい物に当てるはずもない。「他の物をこばむ」という意味は出そうにない。また巨にそんな意味はない。意味とは言葉の意味であって具体的文脈に使われる意味である。
拒は次のような用例がある。
①原文:始如處女、敵人開戸、後如脱兔、敵不及拒。
 訓読:始めは処女の如く、敵人戸開く。後には脱兎の如く、敵、拒(ふせ)ぐに及ばず。
 翻訳:最初は処女のようにおとなしく見せると敵は油断して門戸を開く。後には逃げる兎のように素速く行動すると敵は防ぐひまがない――『孫子』九地
②原文:可者與之、其不可者拒之。
 訓読:可なる者は之に与(くみ)し、其の不可なる者は之を拒め。
 翻訳:付き合ってよい者は仲間にし、よくない者は断りなさい――『論語』子張

①は抵抗して近寄らせない(ふせぐ)の意味、②はだめだと抵抗して相手を受け入れない(こばむ)の意味で使われている。これを古典漢語ではgiag(呉音ではゴ、漢音ではキョ)という。これの視覚記号が拒である。「巨(音・イメージ記号)+手(限定符号)」と解析する。巨にコアイメージの源泉がある。巨は「幅(距離)が隔たる」「二点間を隔てる」というイメージがある(詳しくは336「巨」を見よ)。したがって拒は二点間(AとBの間)に距離を置いて近寄らせない情景を暗示させる図形。①の「ふせぐ」、②の「こばむ」の意味は「二点間に距離を置いて隔てる」というコアイメージからの展開である。
白川漢字学説には形声の説明原理がない、言い換えればコアイメージという概念がないので、意味の展開を合理的に説明できない。