「叫」

白川静『常用字解』
「形声。音符は丩。丩は縄をより合わせる形であるが、この字は叫び声を写したものであろう。それで“さけぶ、よぶ” の意味に用いる」

[考察]
「この字は叫び声を写したもの」とは擬音語のことか。そうすると字ではなく語であろう。字と語の区別、つまり文字と言葉の区別があいまいである。
字形を会意的に説いて意味を引き出すのが白川漢字学説の特徴であるが、丩(縄をより合わせる形)と「さけぶ」の関係が説明ができないので、字源を放棄し、擬音語説に逃げた。
言葉という視座から語源的に見れば、丩と叫の関係はつかめる。叫の深層構造は丩という記号にある。丩はコアイメージを示す記号である。どんなイメージか。
大声を出す(さけぶ)ことを古典漢語ではkög(呉音・漢音ではケウ)といい、叫と表記された。古典で次の用例がある。
 原文:或不知叫號 或慘慘劬勞
 訓読:或いは叫号を知らず 或いは惨惨として劬労す
 翻訳:悲痛な叫びを知らぬ者もあれば 痛ましく苦しむ者もある――『詩経』小雅・北山

叫は大声でさけぶ意味で使われている。叫は「丩キュウ(音・イメージ記号)+口(限定符号)」と解析する。丩は二つの曲がった線を互い違いによじる様子を示す象徴的符号である(328「糾」を見よ)。「§の形によじり合わせる」というイメージがあり、よじった結果として、「引き締める」「引き絞る」というイメージにも転化する。大声を出す行為を、喉を引き絞って激しい摩擦を起こす生理現象と想像し、「引き絞る」のイメージで捉えたのがkögという語である。これの図形化である叫は「喉を引き絞って声を出す情景」という意匠になっている。意味は「大声で(あるいは金切り声で)さけぶ」である。