「協」

白川静『常用字解』
「形声。音符は劦キョウ。劦は力(耒の形)を三つ組み合わせた形で、農耕のとき協力して耕すことをいう。協は力を合わせて耕すことから、力を合わせて物事をする、助ける、心を合わせるなど、“あわせる、ともにする、かなう” の意味に使う」

[考察]
力を耒(すき)の形と解釈したのは徐中舒(中国の文字学者)である。甲骨文字では耒の形だったとしても、liəkという言葉が「すき」の意味だったという保証はない。古典漢語の世界ではliəkは「ちから」の意味であり、筋力から発想された言葉であることは確かである。すべての「力」に従う字を耒によって解釈するのは誤りである。
劦を三つの耒だと解釈して、農耕で三つの耒を合わせることが協力の意味になるという。しかし劦に「農耕のとき協力して耕す」という意味はあり得ない。力を合わせて耕すことから、協は力を合わせて物事をする意味になるという。「耒を合わせる」がいつの間にか「力を合わせる」になっている。始めから素直に「力を合わせる」と解釈してよかったはず。力が耒だという固定観念があるため、回りくどい解釈をしている。劦は「力を合わせる」でよいが「十」は何なのか。これの説明がない。中途半端な字源説である。

では協をどう解釈するか。まず古典での協の使い方を見よう。
 原文:有衆率怠弗協。
 訓読:有衆率ゐて、怠りて協せず。
 翻訳:多くの人が導きながら、怠って力を合わせなかった――『書経』湯誓

協は力を合わせる意味で使われている。この意味の言葉(古典漢語)はɦāp(呉音ではゲフ、漢音ではケフ)であり、その視覚記号が協である。これは「劦(音・イメージ記号)+十(イメージ補助記号)」と解析する。劦は力を三つ重ねた図形で、「力を合わせる」というイメージを表すことができる。十は十進法の単位の一つで、基数が終わった後に10個の数を一つの単位としてまとめる記号である。だから十は「まとめて一本化する」というイメージを示す記号になる。かくて協は多くの力を合わせて一つにまとめる状況を暗示させる。
以上は多分に言葉の表面的な捉え方である。もっと語の深層構造に迫る必要がある。ɦāp(協)という語は夾(ɦāp)のグループ(夾・挟・狭・峡・俠・頰・莢)と同源で、コアイメージが似ている。劦(力を三つ重ねた形)は視点を変えるとA→B←Cの形になる。A・C(両側)に視点を置くと、両側から中の物を挟むというイメージに転化する(このイメージは脇によく現れている)。また中心に視点を置くと、左右または上下から中心に集まるというイメージに転化する。後者のイメージから「いくつかのものが中心に集まってきて一つにまとまる」というイメージが生まれる。これが協(力を合わせてまとまる)である。