「狭」
正字(旧字体)は「狹」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は夾。夾は人が両脇に人をかかえている形で、ものを挟むという意味があり、また左右からせまった狭い所という意味がある。道路は一定の道はばがあるが、獣道は道ともいえぬほどの狭いものであるから、夾に犭をつけて狹となる。狹は狭い道の意味から、“せまい、せばまる、せまくるしい”という意味になる」

[考察]
狹には犭(犬)がついているから、獣道から意味を求める。獣道は普通の道路よりも狭いから、狹は狭い道→せまいという意味になったと説く。
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。たとい形声でも会意的に説く。会意とはAの意味とBの意味を合わせた(プラスした)ものをCの意味とする方法である。夾を音符としながら、「ものを挟む」あるいは「左右から迫った狭い所」の意味があるとして、獣道と結びつけた。
言葉という視座を欠いているのが白川漢字学説の特徴である。形声の原理は言葉の深層構造に掘り下げる方法である。狹の深層構造は夾にある。夾は「→・←の形に真ん中のものを両側からはさむ」というコアイメージを示す記号である(357「峡」を見よ)。「→・←」の形の→←の部分に視点を置くと「はさむ」というイメージだが、真ん中の「・」の部分に視点を置くと、二点間の間隔が狭いというイメージである。これはイメージであって意味ではない。意味として実現させるために、具体的な場面を設定する。こうして造形されたのが狹という図形である。犬に関わる場面が作られた。なぜ犬か。犬は狂・犯・猛などにも見られるように、何らかの行動・行為を比喩的に表現するために利用される。これらの「犬」は比喩的限定符号である。犬が迫ってくる場面を設定したのが狹という図形である。もちろんそれは図形的意匠(図案、デザイン)であって意味ではない。意味は「間隔がせまい」である。この意味をもつ古典漢語ɦăp(呉音ではゲフ、漢音ではケフ)を狹で表記するのである。