「矯」

白川静『常用字解』
「形声。音符は喬。喬は高(ものみやぐらのある城門)の上に神を招く標木(目印の木)を立てる形。楼門のように呪禁(まじない)を施すことによって悪邪を正すと考えられた。矯は古くは“いつわる” の意味に用いた。“ためる、改め直す”の意味はのちの使い方である」

[考察]
「悪邪を正す」と言いながら、矯は「いつわる」の意味という。矛盾である。また「矢」の説明がない。
字形から意味を求めるのが白川漢字学説の方法であるが、本項は失敗であろう。
古典では次の用例がある。
 原文:不勁直不能矯姦人。
 訓読:勁直ならざれば姦人を矯(た)む能はず。
 翻訳:自分がまっすぐでないと、悪人をまっすぐに直すことはできない――『韓非子』孤憤

矯は曲がったものをまっすぐにする(ゆがんだものをため直す)という意味で使われている。矯は「喬(音・イメージ記号)+矢(限定符号)」と解析する。喬は「◠形に曲がる」と「高い」の二つのイメージをもつ記号である(368「橋」を見よ)。「高い」は「高く上がる」というイメージ、さらに「↑の形にまっすぐ伸びる」というイメージに転化する。矢はまっすぐなものの代表として選ばれたもので、比喩的限定符号である。したがって矯は曲がったものを矢のようにまっすぐにする状況を暗示させる。この図形的意匠によって上記の意味をもつ古典漢語kiɔg(呉音・漢音でケウ)を表記する。