「鏡」

白川静『常用字解』
「形声。音符は竟。“かがみ” をいう」

[考察]
形声の説明原理がなく、すべての漢字を会意的に説くのが白川漢字学説の特徴である。本項は会意でも説けない。竟から鏡を会意的に説明できない。だから字源を放棄した。

形声とは言葉の深層構造から語源的に説く方法である。音・イメージ記号の竟にコアイメージの源泉がある。竟は「―|―の形や―|の形に区切りをつける」というイメージを表す記号である(367「境」を見よ)。AとBの間に線を引いて区切り目をつけたもの、これが境(土地の区切り目、さかい)である。A|B の形にくっきりと境目がつく。
光で物を映す際、明るい部分と暗い部分の境目ができる。明と暗の区別がはっきりして初めて物の真の姿が映る。姿見(かがみ)は姿を映すという機能をもつ道具である。だから「くっきりと境目がつく」というイメージをもつ竟によって造語され造形された。これが鏡である。字源は「竟(音・イメージ記号)+金(限定符号)」と解析する。この図形の意匠は「金属を磨いて、明暗の境目をくっきりとつけて、姿を映し出すもの」である。この図形的意匠によって「かがみ」を意味する古典漢語kiăng(呉音ではキヤウ、漢音ではケイ)を表記する。