「均」

白川静『常用字解』
「形声。音符は勻キン。勻に含まれる二は∶で、同じ量を鋳込んだ銅の塊の形。勻は同じ量を鋳込んだものであるから、ひとしい、ひとしくするという意味がある。土の高低をならして平らかにすることを均という」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。勻(同じ量を鋳込んだ銅の塊→等しいの意味)+土→土の高低をならして平らにするという意味を導く。
勻の二の解釈が奇抜である。銅の塊には見えない。また勹の説明がない。勻の解釈は中途半端である。
字形から意味を引き出すのは誤りである。なぜなら意味は「言葉の意味」であって字形にあるのではないからである。意味は言葉が使われる文脈から出てくる。文脈がなければ意味もない。均の用例を見てみよう。
①原文:大夫不均 我從事獨賢
 訓読:大夫均(ひと)しからず 我事に従ふに独り賢なり
 翻訳:御家老たちは不公平 俺だけつとめが多すぎる――『詩経』小雅・北山
②原文:我馬維駰 六轡既均
 訓読:我が馬は維れ駰イン 六轡既に均(ととの)ふ
 翻訳:私の馬は黒葦毛 六つの手綱は釣り合いとれて――『詩経』小雅・皇皇者華

①は全体に渡ってでこぼこがなくバランスが取れている(等しくそろっている)の意味、②は調和が取れている(ととのう)の意味で使われている。でこぼこがなく平らにする(ならす)の意味はそれからの展開である。これらの意味をもつ古典漢語がkiuən(呉音・漢音でキン)である。これを表記する視覚記号が均である。この図形はどんな意匠(図案、デザイン)でできたのか。
「勻イン(音・イメージ記号)+土(限定符号)」と解析する。勻は「勹+二」を合わせた図形。勹は旬にも含まれ、腕を↺の形にぐるりと回す情景を設定し、「↺の形にぐるりと回る」というイメージを示す記号になる。円形は欠け目がなくバランスの取れた形である。二は並べてそろえることを示す符号。したがって勻は物を並べそろえてバランスのよい状態にすることを暗示させる。かくて均は土をならしてでこぼこがなく、全体的にバランスのよい状態にする状況を暗示させる。この図形的意匠によって①の意味をもつkiuənを表記する。