「琴」

白川静『常用字解』
「形声。音符は今。その上部は琴の糸を張りわたした形。古い字形は琴の形の全体をあらわす象形の字であったが、のち糸の部分だけを残し、その音を示す今をそえて琴の字形となった」

[考察]
字形の解剖は妥当であるが、今の解釈がない。形声文字も会意的に説くのが白川漢字学説の特徴であるが、本項では今からの解釈ができない。字源の放棄と見なす。
琴は「今(音・イメージ記号)+珡(限定符号)」と解析する。今と珡がドッキングしたために珡の人の部分が省略された。省略された形を限定符号とする字は琴のほかに瑟・琵・琶もある。珡は弦楽器の「こと」を描いた図形である。珡が「こと」を表す字であるが、これを限定符号に用いた琴が新たに作られた。ではなぜ「今」を基幹記号としたのか。それは「こと」という楽器の形態や機能の面に着目し、命名の由来を明示するためである。つまり琴は今という語と同源なのである。では今とは何か。
「こと」を意味する古典漢語はgiəm(呉音ではゴム、漢音ではキム)という。今(kiəm)はgiəmを暗示させると同時に「中にふさぐ」というイメージを示す記号である(後に「今」で詳述する)。音とイメージを同時に示すので「音・イメージ記号」と呼ぶ。古人は「琴は禁なり」とも語源を説いている。禁も「中に入れてふさぐ」というイメージがある。「こと」の形態的、機能的特徴(一般に弦楽器の特徴でもあるが)、すなわち胴に音をこもらせて共鳴させるという特徴に基づく命名である。