「緊」

白川静『常用字解』
「形声。音符は臤ケン。臤は臣(大きな瞳)に又(手)を入れる形で、神のしもべとする人の眼睛を傷つけて視力を失わせることをいう。そのときの瞳を傷つけられる人の心が張りつめ、体がひきしまった状態を緊という」

[考察]
字形から意味を求めるのが白川漢字学説の方法である。臤を、失明させるために目に手を突っ込むことと解し、瞳を傷つけられる人の心身がひきしまることが緊の意味とする。糸偏の字の解釈としては不十分であろう。意味の展開にも必然性がない。目をつぶされる事態がもたらす影響が緊張感だとは奇妙である。
実際の用例を調べてみよう。緊は古典に次の用例がある。
①原文:盛而緊曰腫。
 訓読:盛りて緊まるを腫と曰ふ。
 翻訳:盛り上がって堅く締まるものだ腫瘍である――『素問』平人気象論
②原文:戈戟之緊、其厲何若。
 訓読:戈戟の緊、其の厲(はげ)しさは何ぞ若(し)かんや。
 翻訳:堅く締まっているほこの激しい切れ味は何も及ばない――『管子』問

①はゆるんだものをぴんと堅く締める意味、②は堅く引き締まった状態という意味である。いずれも緊張した状態だが、特に心身に関わるわけではない。①②の意味をもつ古典漢語がkien(呉音・漢音でキン)であり、これに対する視覚記号を緊とする。緊は「臤(音・イメージ記号)+糸(限定符号)」と解析する。臤は「臣(音・イメージ記号)+又(手の動作に関わる限定符号)」と分析する。臣は目玉の形だが、特殊な場で使われる記号で(監・覧・臥・朢=望など)、最初は家来が君主の前で目玉を堅く張り詰め、体を緊張させて平伏する情景から発想された記号である。だから臣は家来という意味がある。その語の根底には「堅く張り詰める」「堅く引き締まる」というイメージがある(「臣」で後述)。臤は「堅く引き締める」という動作を表している(472「堅」を見よ)。これに糸を添えた緊は、糸を緩まないように堅く引き締める状況を暗示させる。これは具体的場面を設定した意匠(図案、デザイン)であって、糸という具体物は捨象して、ただ「堅く引き締める」という意味をもつkienという語を喚起させるである。