「句」

白川静『常用字解』
「会意。勹は体を曲げている人を横から見た形で、身を曲げている死者の形。それに祝詞を入れる器のᆸをそえて、死者を埋葬する意味を示し、局と同じくもと屈肢葬をいう語であろうと思われる。句は“まがる”の意味から、曲がった形のものをいう」

[考察]
勹(体を曲げている人)と口(祝詞を入れる器)から、なぜ死者を埋葬する意味が出るのか。死者を弔うという意味でも不思議ではない。字形から意味を導くと、その意味に必然性がない。だいたい句に「死者を埋葬する」という意味はありえない。意味とは字形に由来するものではなく、言葉に内在する観念である。言葉が具体的な文脈で使用される意味である。古典に句は次の用例がある。
 原文:敦弓既句 既挾四鍭
 訓読:敦弓既に句コウし 既に四鍭を挟む
 翻訳:彩りした弓は張られて曲がり 四本の羽矢を手に挟む――『詩経』大雅・行葦

句はかぎ形(ᒣの形やᑎの形)に曲がるという意味で使われている。この語を古典漢語ではkug(呉音ではク、漢音ではコウ)という。この語を代替する視覚記号として句が考案された。これはどんな意匠をもつ図形か。ここから字源の話になる。
句は「勹+口」と分析できるが、勹は包・旬・均などの勹とは別で、「ᒪ+ᒣ」の合わさった形、つまりかぎ形である。口は仕切られた場所や範囲を示す符号。したがって句はかぎ形で小さな範囲に仕切る情景を暗示させる図形。この意匠によって上記の意味をもつkugを表記する。
意味はコアイメージによって展開する。「かぎ形に曲がる・区切る」がコアイメージで、①かぎ形に曲がる意味、②かぎ形、またかぎ形のもで引っ掛ける(引っ掛けて捕らえる)の意味、また、③文章をかぎ形の印で区切る、また、④文章の切れ目の意味(句点・句読の句)、⑤一区切りの文の意味(語句・文句の句)に展開する。③の意味が現れるのは漢代以後で、発音がkiug(呉音・漢音ではク)に変わった。