「駆」
正字(旧字体)は「驅」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は區。區は匿されている場所に、ᆸ(祝詞を入れる器の形)を三つ置いている形で、その祈りの場所、また祈って悪霊を祓うの意味がある。それで駆には“おう、おいはらう”という意味がある」

[考察]
字形から意味を引き出すのが白川漢字学説の方法である。「区」の項では「多くの祈りの器を並べて祈る場所」の意味とする。本項では新たに「祈って悪霊を祓う」という意味があるという。区にそのような意味はあり得ない。駆の意味を「おいはらう」と解釈したいために、区に悪霊を祓うという意味を与えたと推測させる。必然性も合理性もない意味展開といわざるを得ない。
古典で駆はどのように使われているかを見てみよう。次の用例がある。
 原文:驅馬悠悠 言至于漕
 訓読:馬を駆りて悠悠たり 言(ここ)に漕に 至る
 翻訳:馬を走らせてはるばると 漕までやって来た――『詩経』鄘風・載馳

駆は馬にむち打って走らせる、また、馬が速く走る意味で使われている。この語を古典漢語ではk'iug(呉音・漢音でク)という。これを驅という図形で代替する。分析すると「區(音・イメージ記号)+馬(限定符号)」となる。區は「曲がる」というイメージがある(396「区」を見よ)。「曲がる」を図示すればᒥ・ᒪ・ᒣ・ᐱ・ᑎなどの形であるが、「◠の形にかがむ」というイメージにも転化する。馬が速く走ると乗った人は背を◠の形にかがめる姿を呈する。だから上記の意味をもつ言葉を驅の図形によって表記する。