「具」

白川静『常用字解』
「会意。貝と廾とを組み合わせた形。廾は左右の手を並べた形。貝の部分は古くは鼎の形であるから、具は両手で鼎を捧げ持つ形。その鼎に入れて供える物をそろえて用意することを“そなえる” 、用意されていることを“そなわる”という」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。「貝(鼎)+廾(両手)」の形から、「鼎に入れて供える物をそろえて用意する」という意味を導く。
当たらずといえども遠からずであろう。具は古典で次のように使われている。
①原文 三十維物 爾牲則具
 訓読 三十なり維れ物 爾の牲則ち具(そな)はれり
 翻訳 いろいろの毛の色三十種 これでいけにえは皆そろった――『詩経』小雅・無羊
②原文 兄弟具來
 訓読 兄弟具(とも)に来る
 翻訳 兄弟は一緒にそろってやって来た――『詩経』小雅・頍弁

①は必要なものを取りそろえる意味、②は一緒にそろって(ともに)の意味である。この意味をもつ古典漢語がgiug(呉音ではグ、漢音ではク)である。これを代替する視覚記号として具が考案された。
この言葉のコアイメージは不倶戴天の俱(ともに)にもはっきり現れている。A・B・C・Dがばらばらではなくみんな一緒に合わせる様子が「ともに」だから、「いくつかのものを一緒に取りそろえる」というのがコアイメージである。このコアイメージを図形に表現したのが具である。これはどんな意匠をもつ図形か。
具を分析すると「鼎+廾(両手)」となる。篆文では「目+廾」だが、甲骨文字・金文に遡ると「鼎+廾」であることが判明した。鼎は煮炊きする道具で、日常生活に必要な備品である。ただし鼎という実体に重点があるのではなく、備品はいろいろあるから、鼎はその代表として選ばれたに過ぎない。廾は両手の形で、「一緒にそろえる」というイメージがある(349「共」を見よ)。したがって「廾(イメージ記号)+鼎(イメージ補助記号)」を合わせた具は、必要なものをいろいろ合わせて一緒に取りそろえる情景を暗示させる。この図形的意匠によって①と②の意味をもつgiugの代替記号とするのである。